2019年12月、民衆と警察隊の衝突で、香港は大変な事態になっています。
そんな時だからこそ思い出す、2017年のゴールデンウィーク、香港への家族旅行。今回はその時の話です。
思い入れのある都市
私の父親は、ある会社の駐在員でした。
ニューヨークとロンドンの駐在を経て、最後は香港の小さな事務所の責任者でした。かなり長い間、香港と日本を行ったり来たりの生活を送っていたのです。
私は、「香港に行ってくる」といって家を後にする父の背中を見て育ち、お土産の海外版音楽CDの、ビニールを剥がすときに香る独特な匂いに、香港という異国を強く感じていたのです。
そんなわけで、香港は私にとってちょっとだけスペシャルな都市なのです。
一度だけ、イギリスからの返還直前に香港に行ったことがありました。現地で父と待ち合わせて、ご飯を食べに行ったのです。
そんな高級なホテルに泊まったわけではありませんが、それでも私をロビーで待つ父親は、ラフな格好すぎて浮いていたのを覚えています。
これが1996年とかの話。それから21年、再訪のチャンスが訪れました。
思ったより安かったLCC
それは、2017年の春先でした。
ゴールデンウィークに、どこか行きたい。でも、どこも高いんだよなあ…とあきらめいたところ、Jetstarでちょっと日程を外せば、香港まで3人で8万円で往復できることがわかりました。
こうなったら、我が家は早いです。会社にいた私は、すぐさまLINEでチカちゃんに連絡。予約してOKとの返事と、パスポート番号などの情報を入手。チケットをみつけて一時間で、予約を完了しました。
お互い旅行者で、旅のスタイルも金銭感覚も同じなので、決断が早いのです。ただし、コウタの意見は聞いていませんが…。
さて、宿です。
我が家では、事前に宿をとる場合ととらない場合がありますが、この時は日程が短いのと、日本のゴールデンウィークと重なって混んでいるかもしれない、と思って宿を予約しておくことにしました。
Booking.comで探すと、香港の目ぬき通りであるネイザンロードに面した、手頃なホテルが見つかりました。名前は、オーストラリアン・ゲストハウス。チカちゃんと相談して、4泊の予約を入れました。
しかし、この時気付くべきだったのです。世界的に見ても家賃の高い香港。こんないい立地で、3人で一泊あたり525HK$(7,250円)なんて、裏があるに決まっているのです。
香港なのに、ほぼインド
香港に到着、街の強力なエネルギーに驚きながら、ネイザンロードの番地へ。
え、こんな大きなビル?入口には「重慶大厦」の文字が。一歩足を踏み入れると、鼻をつく香辛料の匂いと、立ち並ぶインド料理屋、両替屋、濃い肌の色の顔、顔、顔。
これって。。。チョンキンマンションじゃん!
重慶大厦(チョンキンマンション、以下チョンキン)は、香港の中心地に建つ巨大ビル。
ビルの中にテナントとして多くのゲストハウスが入っており、今はその多くが インド人経営。そして少しでも爽やかなイメージを出したいのか、「オーストラリア」とか「スイス」とか、香港に関係ない国名を屋号に付けている。
あやしい雰囲気、巨大で複雑なつくりは、かつて香港に存在したスラム「九龍城」を彷彿とさせ、「魔窟」とか呼ばれたりします。
旅人たちのバイブル「深夜特急」でも、若き日の沢木耕太郎が泊まったのが、このチョンキンでした。
香港の一等地で安く泊まれるワケは、この魔窟の中だったから。図らずも、私たちのゴールデンウィーク家族旅行の舞台は、チョンキンになったのです。
遠すぎる16階
私たちの予約した「オーストラリア・ゲストハウス」は、チョンキンの16階にありました。
当然、そこまで上がる必要があるのですが、そのエレベーターが残念すぎました。
チョンキンは4つの棟に分かれていて、それぞれに二基ずつ、エレベーターがついています。しかし、それが明らかにビルの収容人数に比べて小さいのです。一基あたり、乗れる人数は6人ほど。当然、スーツケースなんか持っていると乗れる人数は減ります。
しかもこのエレベーター、よくメンテナンスや故障で、片方しか動いていないです。そうなると、もう長蛇の列。朝晩なんて、40分待ちなんてこともあります。もう、遊園地のアトラクションに並んでいる気分になります。
4つの棟は、上階では繋がっていません。空いているエレベーターで上にあがって、横に移動するという技が使えないので、自分の棟のエレベーターで、大人しく待つしかないのです。
最終手段は、階段です。小学4年生のコウタと、何度か上りました。
しかし、この階段がなかなかの阿鼻叫喚なのです。早く自分の部屋に戻ってトイレに行きたい宿泊者が、エレベーターを待ちきれずに階段を使うのですが、1階や2階で早くも力尽き、立ち小便してしまうのです。階段ホールには尿の匂いが立ち込め、壁は長年の染みで、謎の色をしています。
エレベーターに無事乗れたとしても、上がれるのは14階まで。私たちのゲストハウスは16階だったから、さらに2階ぶん、階段を使う必要がありました。
ぜんぜんオーストラリアじゃない
やっとのことで16階に到着すると、そこで待っているのは、でっぷりとしたインド人親父と、夜勤の少年。
コアラもカンガルーもいません。全然オーストラリアじゃないけど、ようこそ、オーストラリア・ゲストハウスです。
宿に唯一あるトリプルルームはフロントの真向かい、薄い壁とドアの向こうでした。24時間チェックインだから、深夜に来る客とのやりとりがすぐ傍で聞こえ、うるさいったらありゃしない。
ベッドは何とか眠れる感じだったけど、とてもゆっくりはできません。
初めて部屋に入ったとき、チラリとコウタを見たのですが、大人より深いため息をついていました。
まあ、最後は塾の宿題を部屋でやる位には慣れたのですが。。。さすがに二度とチョンキンはごめんだそうです。
チョンキンはもう嫌だ!
大丈夫!俺も嫌だ!
今回の教訓:いやに良い立地で手ごろな宿があったら、チョンキンを疑え!
宿をケチったぶん、食べまくる
ただ、旅行自体はたいへん楽しいものになりました。
香港には私たちのアニキ的に人が住んでおり、その人の仲間と、日本からの友達も加わって、連日酒池肉林の大騒ぎ。一日三万歩とかあるいて、5食ぐらいたべていました。
その様子は、また別の機会にご紹介できたらと思います。
最後に
香港の争乱は、私にとってもショックです。またいつか訪れてみたいと思っていますし、 チベットやウイグルのように、力づくで香港独特の文化が失われるのは心が痛みます。
チョンキン・マンションはどうなるのでしょうか?
私たち家族はもう泊まりたくありませんが、たとえばこのビルが取り壊され、ピカピカのホテルになったら、それはそれで寂しく感じると思います。まるで、バンコクのカオサンロードがどんどん近代化するように…。
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